未払い残業代の請求に関する内容証明郵便が届いた場合の対応について
弁護士法人ニューステージでは、数多くの会社様のご依頼により、従業員とのトラブル(特に未払い残業代請求や解雇についての紛争)を取り扱い、サポートさせていただいております。
未払い残業代の請求に関する内容証明郵便が届いた場合の対応についてご説明します。
内容証明郵便は突然届く
突然、従業員(元従業員)の代理人弁護士から内容証明郵便が届いたら、とても驚かれると思います。
—この従業員は円満に退職したはずなのに・・・
—会社に忠誠心がある社員だと思っていたのに・・・
—弁護士から敵意むき出しの書面が来るなんて!
いろいろな思いがあると思います。
混乱してしまい、次のような対応を取られる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ちょっと待ってください!
まずは冷静に対応することをおすすめします。
やってはいけない対応その1:すぐに相手方代理人に連絡する
従業員の代理人弁護士からの手紙には、数百万円の請求とともに、次のように書かれています。
「上記金額を5日以内に下記口座にお振り込みください。誠実に対応されなかった場合には、民事訴訟や強制執行など、法的手続を行うことを予告いたします。」
数百万円という金額とともに、「5日以内」「強制執行」など恐ろしい言葉が並びます。
誰にも相談することなく、すぐに相手方弁護士に電話してしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、「きちんと残業代を支払っているじゃないか。うちの給与制度を知っているのか。」などと相手方の弁護士と電話で議論したりするケースです。
相手方弁護士にすぐに連絡したいというお気持ちは十分に理解できます。
しかし、少し待ってください。
十分に時間を取って、適切に対応することが必要です。
高額の請求や「訴訟」などの言葉に不安や恐怖を感じる方も多いと思いますが、すぐに相手方弁護士に電話をしたからと言って解消されるものではありません。
また、議論すればするほど、会社側の見解を説明せざるを得ないことになりますが、この主張が、後に弁護士を通じて会社側が主張する内容と整合しなかったり、会社にとって不利な証拠として使われてしまう場合もあります。
さらに、十分な検討を尽くしていないにもかかわらず、相手方のペースで和解の交渉になってしまう場合もあります。
例えば、500万円の請求がなされているケースで、相手方に抗議したところ、250万円での和解案を提示されたとしたらどうでしょうか?
不安や恐怖を感じている経営者の方においては、「それくらいで済むなら・・・」と思ってしまう方もいるのではないかと思います。
しかし、実際に後から計算し直したり、検証してみると、そんなに多額の和解をしなくても良かったというケースもあります。
もちろん、そんなことは全部承知で、とにかく早く解放されたいから、いくらでも支払うのだ、という経営者の方を止めることは致しません。
しかし、そのような対応は、他の従業員の方にも影響を及ぼすかもしれません。
未払賃金の請求をされる場合、会社側の給与制度やシステムに何らかの不十分な点があることも多くあります。安易な和解をすれば、すべての従業員(元従業員)に影響があり得るのです。
やってはいけない対応その2:すぐに他の従業員に伝える
事件を通じて経営者の方と接して感じるのは、従業員の方々への信頼が厚く、家族のように思っておられる方が多いということです。
もちろんそのような感情は悪いことではありません。
しかし、従業員(元従業員)から、未払い残業代などの請求がなされた場合に、すぐに他の従業員の方に説明したり、事情を聞いたりすることは、かえって紛争を拡大する可能性もあることを理解していただきたいと思います。
例えば、「元従業員の○○からこんな手紙が来た。」と言って回覧したり、「実際にどれくらい残業していたのか。」と聞いて回るようなケースです。
前述しましたが、ある従業員から未払い残業代請求がなされたことを知れば、その内容次第では、他の従業員の方にも影響を及ぼす場合もあります。
まずは、経営陣の一部の方のみで対応し、弁護士に相談後、必要があれば、十分に配慮しながら同僚などへのヒアリングを行うという順番になるのではないかと思います。
また、残業代請求については、現在働いている従業員の方から請求されることもあります。
そのような方について、「会社に対してこんな手紙を送ってきた」と広めてしまうことは、パワハラなどの問題が生じることもあります。
社内でどのように対応するかという問題は、とても繊細な問題がありますので、十分に弁護士と相談した上でご検討いただければと思います。
内容証明郵便が届いた場合は、すぐに弁護士と相談してください
未払賃金があるとの内容証明郵便が届いた場合、まずは、経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談するのは、問題となっている内容証明郵便に対して、どのように対応するかということにとどまるものではありません。
社内で誰に伝え、どのように対応するかも大きな問題となります。
また、何故そのような請求がなされたのかを分析し、現状の会社の給与制度に何か不備がないか、今後どのように対応していけば良いかも相談すべきです。
雇用の問題は、1人の労働者との関係だけではありません。全従業員との間の、すべての契約関係を規律しているわけですから、事件が和解で終わればそれで良いというものではないのです。
とはいえ、まずは、当面の請求に対して、どのように対応するかが重要になるかと思います。
弁護士の相談に必要な資料
弁護士への相談にあたって、届いた内容証明郵便を見せていただくのは当然ですが、できるだけ多くの資料を拝見させていただきたいと思います。
(1) 就業規則、賃金規程など
これらは、会社の労働制度の資料になります。残業代を計算するにあたっても必要不可欠です。
従業員との三六協定などの協定を結んでいる場合はその資料も拝見したいと思います。
(2) 雇用契約書、労働条件通知書など
請求者である従業員との雇用条件が明記されていますので、必要な資料となります。
その他、入社時の説明資料や、求人広告なども参考になる場合があります。
(3) 給与明細、給与台帳など
従業員に対して、給料が、どのような費目で、どのように計算されて支給されているかを知るためのものです。
(4) タイムカード、出退勤簿など
実際の労働時間を示す資料があるかは会社によっても異なりますが、可能な限りの資料を検討する必要があります。
場合によっては、会社事務所の鍵の開閉の記録や、パソコンのログイン記録なども労働時間を確認する資料になることもあります。
(5) その他、会社の概要、組織図など
会社の中でどのような業務に従事していたか、役職なども重要です。
以上のような資料を弁護士が確認し、十分に事情をお伺いして、対応方針を決めていくことになります。
内容証明郵便の内容によって対応方針は異なります
未払賃金を請求する内容証明郵便ですが、大きく分けると、(1)金額を明示して請求する場合と、(2)金額は明示せず資料の開示のみを求める場合の2通りがあります。
(1)の場合も資料の開示もセットになっているケースが多いですが、求められる資料は、上記で記載した、「就業規則」「賃金規程」「雇用契約書」「タイムカード」などの場合が多いと言えます。
これらの資料は、請求されれば開示する必要があります。
(2)の場合は、まずは資料の開示を求めて、次のステップとして、従業員側で請求額を確定するということになります。
資料の開示のみを求められた場合、会社側の対応としては、第一段階として求められた資料を開示し、同時並行として、会社側も残業代に未払いがあるか否か、どのような計算を用いるか、という点を検証していくことになると思います。
(1)の場合は、既に相手方に一定の資料がある場合もありますが、不十分な資料の中で、類推計算などを用いて請求している場合もありますので、やはり、会社側の資料に基づき、その計算が正しいのか、過大請求がなされていないかをチェックする必要があります。
内容証明郵便に記載された「支払期限」について
内容証明郵便には、「○○円を」「1週間以内に支払ってください。」といった期限が記載されていることが多いと言えます。
しかしながら、内容証明郵便とは言え、あくまでも相手方が送ってくる手紙にすぎませんので、「○日以内」といった期限は、法的拘束力はありません。
私のところに相談を来られる経営者の方の中には、「5日以内と書いているので、それまでに支払わなければならないのでしょうか。」と不安に思われている方もいらっしゃいますが、まずは、十分に検討する必要がありますので、期間についてはこだわりすぎなくても大丈夫であることをお伝えしています。
ただ、だからといって、放置しておいて良いというものでもないと考えています。
可能な限り速やかに回答することが必要ですし、当事務所の場合は、内容証明郵便に記載された期限内にまずは「弁護士として代理人に就任した。」ことの連絡をする場合も多いです。
もし訴訟や労働審判になる前に解決できれば、それが望ましい場合もありますし、誠実に対応することが将来的な円満解決のために重要な場合もあるのです。
本稿では、「内容証明郵便が届いた場合」の対応について述べさせていただきました。
そのようなことがあれば、是非一度、当事務所にご相談ください。